『春情鳩の街』より 渡り鳥いつ帰る
監督 久松静児
公開 1955年
久松静児も視点の優しい監督だ。原作永井荷風、構成久保田万太郎、脚本八住利雄というてんこもり。 見るべきは、織田政雄かなあ、と思う。
この人はすごく好きな役者だ。次のシーンを待ってしまう。芸の上手さに感心したいのと、この人がよく演じている苦労の多い人生を送っている(であろうと思われる)地味なおじさん役がぴったりで、その控えめでおとなしい気質ゆえ人生の貧乏くじを引いてきたような、そしてそれゆえ練れた人柄を演じられると、こういう人に幸せになってもらいたい、と観客は願ってしまう。
この作品の織田政雄は準主役の扱いであるが、基本はどの作品でもほぼ脇役だ。しかし、この人こそ実は替えのきかない役者なんだろう。
最近でこそ、バイプレーヤーと言われて存在感のある脇役が持て囃されているけれども、そこまで印象に残らない、何でも演じられる、どの映画にも出演できる、普通すぎて見過ごす、みたいな役者ってすごいよと思う。本人的には印象に残らない市井の人を多く演じる苦悩もあっただろうけど、他にちょうどいい役者って、そんなにいない。大部屋とかエキストラとかじゃなくて脇役のプロ。その人の佇まいが、画面に安心感を生む。その人のあり方が、観客の共感に連動してる。大袈裟かもしれないが、その作品の世界観を支える大きな役割を担ってる。
本気でそう思う。