人情紙風船

監督 山中貞雄
公開 1937年

※ネタバレあり
山中の作品は3作しか現存しない。 夭逝した天才の仕事を見られる貴重な1作。
評価も定まっているので、今更ではある。 役作りとキャスト間の役の型?の違いに若干違和感があるところもあるが、震えが来るほど、カッコイイシーンがいくつもある。 主役級は勿論、端役脇役を芸達者が固めていてスキがない。
特に好きなシーンは、長屋のお通夜の場面と、大家と新三が白子屋から受け取った金を分けあって、白子屋の娘お駒を返す場面。 お駒を返す時の大家のちょうべえのセリフに(「乳母日傘のお前さんにはいい苦労だよ」)上手さも相まって感心しきり。
映画は私たちに、様々なことを考えさせる。
映画では、権力者たち(商家、武士、ヤクザ)の非道な振る舞いを全面に押し出すが、その対象として長屋に住まう様々な立場の人々も、そして自分自身も善良かと言えば、結局は「義理も人情もあったもんじゃない」「今日という今日は情けなくなった」という井戸端会議の女房連のセリフに象徴されるような人間であることを再認識させられる。
だからこそ、小悪党と言われる新三のアウトロー的行動が、庶民の憂さを一瞬晴らす。映画のラストでは、新三がどうなったのかを描き切ってはいないが、想像されるその悲劇性は、間違いなく人の心を惹きつける。