名作鑑賞「風流艶色寄席」
著作 正岡容
あんつる※に大通と呼ばれ、小沢昭一が師と仰いだ正岡容のネタ本。講談・落語・人情話。
昭和30年発行とある。 まあよくぞ残っていてくれましたといいたいほど、本は茶色に焼けて、ページを繰る手も恐る恐るである。 そして、文章はもう1ページ目からなにやら恐ろしい。この本のタイトルにある艶色という言葉は、お色気的な意味合いだが、この本の場合、痴情寄り。
その痴情のもつれの末に起こった実話やいわゆるエロ話(と解説に書いてある)を作品にまとめてある。読んでて怖いのは、その時の登場人物の思いが詰まっている感じがするからだ。
詳細は省くので唐突だが、これを読むと、江戸文化の成熟度を考えてしまう。広い東京で正岡容みたいな人は少数だったかもしれないが、民衆の文化というものの土台があって、それを掬い取って正岡のような通人が活字にしてことを考えると、文化というものの変化を実感する。
いや、本来はもっとライトに読んでいい本だと思うんですよ。昔の週刊誌とか、瓦版的な感じでね。
でも、本のビジュアルからいっても、今読むとそうは思えないんだなあ。古書の怖さも相まってね。
それで、本棚に戻すときは、意識的に明るい本と面白い本の間に差し込んじゃうというね。
※あんつる…安藤鶴夫