三浦春馬が提示したもの
前回「森の学校」ついて書いた。
全く、この1年近くというもの、完全に彼に取り憑かれたとしか言いようがない年だった。
彼のことは、俳優としてというより、1人のタレントとして、熱愛報道等によって認識していた程度で、彼の出演作品は1本も観たことがなかった。あんなことになって以降、地上波では誰も彼の名前すら口に出せない始末であったが、有料チャンネルでは今も尚、彼の出演作は続々放送されており、YouTubeやSNSでは、残された多くの映像を見ることができる。そして、彼が色々な意味でこんなに面白い子だったんだ、と知ると同時に、昨今のタレントの、その消耗消費のされ方に改めて疑問を感じたのだった。
結局、彼の死後に劇場公開された「天外者」も「ブレイブ」も見た。彼が一生懸命演じたことと、作品への評価は切り離して考えなくてはならない。彼を襲った悲劇が、作品への目を曇らせていることは否めない。
そういう意味でも、「森の学校」という作品があって、本当に良かった。寂しい話ではあるが、子役時代のこの作品が、彼の本当の代表作と言っていいかと思う。
この作品における彼の演技は自然で素直で、大器を感じさせる魅力に溢れている。思春期から近年までの彼の演技とは全く違う。当時のインタビューを読んでみても、「この仕事はお芝居をやっているというよりこんな楽しく遊んだ仕事は初めてというのが感想」と言っている。
もちろん、それは子供達にわざとらしい芝居をさせない、作り手の上手さではあるけれども、どうしてこの時のまま、伸ばしてあげられなかったのか、と悔やまれる。
今にして思えば、近年の彼からは苦悩や焦りからくる不安定さが見て取れる。ただ、それと同じくらい、手探りの中見出しつつあった希望や自信も感じられた。また逆説的だが、彼のその不安定さが大きな魅力になっていたとも言える。
そんな状態で、あれだけ多くの仕事をこなしていた。その割りに、舞台は別にして、感心するような出演作が少ない。映像には、役者の技術以前にその人そのものが映し出されてしまうという難しさがあるにはあるけれども、本人の資質の問題というより、業界の問題に他ならない。
人気俳優の突然の死という衝撃的な出来事は、彼の悲劇性と共に人々の脳裏に深く刻まれた。そして、それは思いもよらない影響力を持って様々に波及し、芸能界だけでなく日本の見えざる問題点のいくつかをも浮き彫りにし、少なくとも芸能事務所とタレントの関係性について多少なりとも影響を与え続けているようだ。おそらく彼と交流のあった周囲の人の人生を変えただろう。そして、すれ違いもしない私たちにも多くのことを考えさせた。
そして、皮肉なことに、彼はその死によって、逆に生が際立った。生前は、ハネないことに責任を感じていたとも言われているのだが、誰しもが忘れようにも忘れられない存在になった。
彼がこの世に存在した事実は揺るぎないが、彼自身は永遠に失われた。生きて輝いていた生身の三浦春馬は、本当は傷だらけで虚像だったかもしれないが、その笑顔は誰かの勇気になっていた。返す返すも残念だ。三浦春馬さんのご冥福を心よりお祈りします。
※彼の死の真相については議論があることは承知していて、私は不審死と思っている。
無念とか後悔、未練は、残された生きてる側の人間が思うことなんだろう。しかし、
天網恢恢疎にして漏らさず。天の網は粗いようでいて、誰も逃れることは出来ないのである。